リヴァックスコラム

第17回 野焼き通知を読む

長岡 文明氏

「BUNさんに聞いてみようのコーナー」と言うことで1年以上やってきたんですけど、
ほとんど「通知」ネタでしたね。今回はどんな話ですか?

皆さんから質問等のお題をいただけたら、そちらは最優先で取り上げていきたいと思っているのですが、このコラムを読んでいただいている方々は「通知」を楽しんでいただいているのかも。

まぁ、リヴックスが10年前に連載したコラム「重要通知と法令対応」は今でも読まれていますし、これを本にしたのも重版を重ねているという話だから、需要はあるのかもね。

で、今回は?

宣伝もしてくれてありがとう(^o^)

今回は令和3年に発出された「野焼き」についての通知を見ていきましょうか。
内容に入る前にこの話では一つ注意しておかなければならないことがあるので、それを最初にお伝えしておこう。
ここでも、そして廃棄物処理業界でも短絡的に「野焼き」と呼んでいるけど、これはあくまでも「廃棄物の違法焼却」のことで、奈良の春日山や山口の秋吉台で春先に行う「野焼き」とは違うからね。

ゴミの焼却はやめましょう!|富岡市(https://www.city.tomioka.lg.jp/www/contents/1389876090921/index.html)

了解しました。

で、「廃棄物の違法焼却」、「野焼き」ですか?リヴァックスにとっては無縁のことだと思いますが、なぜ、こんな通知が、今になって発出されたんでしょうか。

たてまえはこの通知に書いてあるとおり、
令和3年の地方分権改革に関する提案募集の時に提案されて、それが採用されたから。

それって何回か前にやったタスクフォース通知と同じですね。

でも、その提案されるってことはなにかしらの要因というか状況があるからでしょ。
それが聞きたい訳ですよ。

いくつか要因はあると思うよ。

まずその1として、まだまだ「野焼き」を悪い行為だと認識していない日本人も多い。
その2、「野焼き」については原則禁止なんだけど例外的に認められている行為がある。
その3、「例外」が「例外」の割に結構な種類があり、その例外について共通認識が出来上がっていない。
その4にその2、その3と共通することではあるんだけど、行政処分や刑事処分を行う行政や警察、検察と行為者、事業者間にレベルのズレがあるっていったところかな。

わぁ、結構あるね。

じゃ、まず、その1として挙げた「野焼きを悪い行為だと認識していない」ってことから説明してみて。

今でこそ多くの日本人は、ごみを「投棄」すること「野焼き」することは悪いことだと思っている。でも、人類の歴史が始まって何万年、日本の歴史が始まって千数百年のうち、「ごみを投棄してはいけない」とルール化したのは50年、「ごみを焼却してはいけない」とルール化したのは20年、たったこれだけの歴史、実績しかない。

だから、今の世でも「ごみ溜め」とか「ごみ焚き」とかいう言葉は残っている。

そうですねぇ。この前、お母さんとお仕事の話で廃棄物の処理が話題になった時に、「お母さんの小学生時代には学校の裏庭にあった<ゴミ焼却炉>でごみを処理してた」って言ってたよ。

廃棄物処理法やその前身の清掃法、汚物掃除法という法律が無い時代には、生活や仕事で出てくるごみは、その辺の邪魔にならないところに捨てたり、火を付けて燃やすことが当たり前だし、それしか方法が無かったんだ。

特に焼却については、焼却することで廃棄物の減量化、安全化、安定化が図られることから、とてもよい方法だったんだ。平成の一桁台あたりまでは市町村によっては、家庭用の簡易焼却炉に助成金を出しているところまであったんだよ。

焼却することにより量は減るし、殺菌されるし、それ以上腐ったりはしなくなりますもんね。
とてもすぐれた処理方法ですよね。

それがどうして禁止されるようになったの?

物を焼却するとダイオキシンが発生する。
ダイオキシンは猛毒だっていうことで、平成一桁の時代にダイオキシン騒動があって、日本中が物を燃やすことにヒステリックになった。もっとも埼玉県の所沢には数キロ四方の中に産廃焼却炉が数十基もあったということだから、そうならざるを得ない要素もあったんだろうけど。

それで「焼却」という処理基準を超厳しくして、その上で第16条の2「違法焼却の禁止」という条文を制定したんだ。それが平成13年。

平成13年まで「違法では無かった」となると、田舎のお年寄りなんかは「紙くずなんか裏庭で燃やしてきた。今までやってきたのに何で悪いんだ。ごみの減量化になっていいだろう。」って言う人もいるかもね。それで、「野焼きを悪い行為だと認識していない」ってことね。

その2の「原則禁止なんだけど例外的に認められている行為がある」っていうのは?

不法投棄は「第十六条 何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない。」という規定だけで、例外は一切無い。
ところが野焼きは・・・

ちょっと長くなるけど以降のポイントにもなるので紹介するよ。

第十六条の二 何人も、次に掲げる方法による場合を除き、廃棄物を焼却してはならない。
一 一般廃棄物処理基準、特別管理一般廃棄物処理基準、産業廃棄物処理基準又は特別管理産業廃棄物処理基準に従つて行う廃棄物の焼却
二 他の法令又はこれに基づく処分により行う廃棄物の焼却
三 公益上若しくは社会の慣習上やむを得ない廃棄物の焼却又は周辺地域の生活環境に与える影響が軽微である廃棄物の焼却として政令で定めるもの

そして、「政令で定めるもの」として・・・

(焼却禁止の例外となる廃棄物の焼却)
第十四条 法第十六条の二第三号の政令で定める廃棄物の焼却は、次のとおりとする。
一 国又は地方公共団体がその施設の管理を行うために必要な廃棄物の焼却
二 震災、風水害、火災、凍霜害その他の災害の予防、応急対策又は復旧のために必要な廃棄物の焼却
三 風俗慣習上又は宗教上の行事を行うために必要な廃棄物の焼却
四 農業、林業又は漁業を営むためにやむを得ないものとして行われる廃棄物の焼却
五 たき火その他日常生活を営む上で通常行われる廃棄物の焼却であつて軽微なもの

と、このように「例外」を規定している。

結構な数の「例外」ですね。これじゃ、いろいろと課題が出てくるっていうのはわかるね。

それで、その3の「共通認識が出来上がっていない」に繋がるのか。

その認識の違いが行為者と行政の間で生じてしまうと最悪、行政処分や刑事処分につながっちゃう。

真面目な事業者は、そうならないために、「もう少し明白なラインを示して欲しい」となった訳ですね。

そうだね。そこで通知の第一「第一 焼却禁止の例外とされる廃棄物の焼却に対する行政処分等の適用について」から記載した。

どれどれ?

この条文は「悪質な無許可業者等を罰則の対象とする」ための制度なんだから「当該罰則規定をもって措置するには馴染まない廃棄物の焼却については、罰則対象の例外を設けている。」

・・・と言うことは、悪徳業者がやっている焼却以外は大目に見てよってこと?

さすがに、そこまでは言えないので、「処理基準に適合しない焼却について、措置命令等の行政処分及び行政指導を行うことは可能」とは言ってるね。

そこで、通知の第二「第二 政令で定める焼却禁止の例外となる廃棄物の焼却の解釈について」に繋がる訳だ。

明確に処理基準に違反しているのはしょうがないけど、
グレーゾーンになるような行為はもう少しはっきりしてってことですね。

そうだね。質問者、提言者は少なくともそういう意図だったと思う。

ところが・・・

どれどれ・・・。
なに?これ?なんにも新たな見解とか規制緩和とか示してないじゃないですか。

「公益上若しくは社会の慣習上やむを得ない廃棄物の焼却又は周辺地域の生活環境に与える影響が軽微である廃棄物の焼却として、令第14条各号において具体的に明示している。」

と言うことは、「政令でこんなに分かり易く示しているんだから、これ以上は不要でしょ」ってことですよね。

そう、さらに「奇貨として、」って言ってるよね。

「奇貨として、」って?

「それをいいことに」「それをチャンスとして」「儲けものとして」みたいな意味だね。法律家さんが使う言葉かなぁ。行政処分指針でも使われている言葉だね。

とすると、「例外が規定されていることをいいことに、悪事が蔓延らないように」って繋がるのね。

そう。そのために「「やむを得ない」と付言したものである。」となり、
よって、「やむを得ない」という状況は・・・

通知最後の

「周辺地域の生活環境に与える影響が軽微である廃棄物の焼却に該当するか否かという点を勘案し、法の目的に照らして合理的と認められるかにより判断されるべきものであり、生活環境の保全上著しい支障を生ずる焼却は、これに含まれるものではない。」

となった訳ね。

そうだね。

これじゃ、提言、通知してもらった甲斐が無いね。
少しは規制緩和してもらえるかと思ったら「基準通りにやるんだったらいいよ。例外規定があることをいいことに、著しい支障が生じたらいつでも措置命令出しちゃうよ」ってかえって火に油を注いだみたいじゃないですか。

まぁ、そのとおりだね。

でも、政令の規定を見れば社会常識に照らせば、たいていはやっていいことと悪いことは判断付くよね。折角だからこの機会に例外を見ておこうか。

「一 国又は地方公共団体がその施設の管理を行うために必要な廃棄物の焼却」、
「二 震災、風水害、火災、凍霜害その他の災害の予防、応急対策又は復旧のために必要な廃棄物の焼却」
この二つはわかるよ。河川や海岸線のの管理のためにやむをえず流木を焼却するといったことだよね。

「三 風俗慣習上又は宗教上の行事を行うために必要な廃棄物の焼却」
って、具体的にはどんな行為があるの?

「お焚き上げ」と呼ばれるような古くなったお守りや卒塔婆を焼却する行為などがあるね。

お守りや卒塔婆は古くなったとしても、魂が籠もっている感じがして、ごみ箱に捨てがたい。そこで天に帰してやるという趣旨で神社やお寺で燃やしてしまうことがあるんだけどそういった行為のこと。

納め札お焚き上げ柴灯大護摩供|成田山新勝寺(https://www.naritasan.or.jp/2022/12/28/34258/)

でも、以前、これを「奇貨として」、亡くなった人の布団や家財道具を大々的に焼却していた行為については告発だったか検挙だったかされた事例があったように記憶している。

さすがに「お焚き上げ」と言っても最小限度にするべきでしょってことですね。

で、今回の通知で提言にあったのが
「四 農業、林業又は漁業を営むためにやむを得ないものとして行われる廃棄物の焼却」と
「五 たき火その他日常生活を営む上で通常行われる廃棄物の焼却であつて軽微なもの」だろうね。

農業をやっていると果樹の剪定枝や菰(こも)巻きと言って、害虫を筵に集めて焼却して防除する手法もある。この時「やむを得ない」とはどの程度なのか?確認したかったんだろうね。

「たき火だ」と言って、家屋解体の木材を派手に焼却している人も、たまぁに見かけたことあるわ。

監視、取り締まる方の裏話だけど、不法投棄はなかなか発見出来ない。
でも、野焼きはすぐ見つかる。だって、「ここで野焼きしてますよ」って狼煙を上げてやってるようなもんだからね。

最近でも野焼きで許可取消受けたって事例は山ほど有るから十分に注意しないとね。

出典:循環経済新聞

なるほど。それで結局、提言はあったけど環境省、行政としては、これについては「規制緩和するようなものではない」。今の規定で十分でしょってなった訳ね。

廃棄物の野焼きなんて、今までもやったことなかったけど、これからも十分注意しないとね。