リヴァックスコラム

第21回 廃プラ処理の円滑化通知を読む その4

長岡 文明氏

数回前から令和元年に発出された「廃プラ処理の円滑化通知」を読んでみて、現在の日本の廃プラスチック類の状況を改めて見直ししています。
プラ資源循環法も施行され1年が経過し、ようやく「製造・販売者自主回収認定」や「排出事業者自主回収認定」も行われたようなので、いい機会かなぁと思います。

前回までは、廃プラスチック類の排出や処理の状況やそのトレンドなどを確認し、処理施設数や能力から見て十分なのでは無いかと思われる。それにもかかわらず「通知」では心配している。
それはなぜか?ってとこまででしたね。

さて、BUNさん、今回はどんなお話しなんですか?

7.インプットが廃棄物なら処理業許可を取ってください。

はい、そのことがもっとも分かり易いのが通知の「第六 使用済プラスチックの廃棄物該当性」です。
前回も提示しましたが、その部分を確認してみましょう。

第六 使用済プラスチックの廃棄物該当性
これまで有価物として輸出されてきた使用済プラスチックについても、外国政府の輸入規制の影響等により搬出先が確保できず、野積みの状態が継続している場合等においては、「行政処分の指針について」(平成30 年3月30 日付け環循規発第1803328 号環境省環境再生・資源循環局廃棄物規制課長通知)に基づき、廃棄物該当性を適正に判断されたいこと。
また、有価物と称して使用済プラスチックを搬入し、プラスチック原料等を製造している事業者がいる場合についても、当該製造工程が廃棄物の処理に当たらないか否かを改めて確認し、適切に対応されたいこと。

前回は「リサイクルとはなんぞや」を復習したんでしたね。
さて、それで?

はい。今回の廃プラスチック類問題はこのことが大きく影響するんです。

たとえば、廃タイヤを原料として、これを破砕・加工し、サンダルを製造している工場があるとします。
この工場は、今までは廃タイヤを持ってきてくれれば1本10円で買い取って、サンダルを100円で売っていました。
ところが、サンダルの重要が少なくなり値崩れを起こして、1足50円でしか売れなくなりました。

どうしたらよいでしょうか?

営業努力で新たな買い手を開発する・・・等の方法を答えて欲しい訳じゃなさそうですね。
この折れ線グラフに沿って答えるなら、「出口で儲からないなら入口で儲ける」すなわち、同じ90円の収入を得ようとするなら、インプットで40円の処理料金を徴収する、かな。

期待した回答をどうもありがとう。そのとおりです。

そして、そのことを廃棄物処理法で考えるなら、今までは原料を買い取っていたからサンダル工場は廃棄物処理業の許可は要らなかった。
しかし、処理料金を徴収して原料にするなら、それは「廃棄物処理業を兼ねたサンダル製造工場」となり、中間処理業の許可が必要になる。

まぁ、この話は何回か聞いたから私は納得しています。
同じ行為をしていても、「物」が廃棄物となったら、とたんに許可が必要になるって最初は違和感を覚えたけどね。

そうだね。総合判断説はなかなか難しい。
そのためと思うけど、通知でも次のように念押ししているよ。

「行政処分の指針について」(平成30 年3月30 日付け環循規発第1803328 号環境省環境再生・資源循環局廃棄物規制課長通知)に基づき、廃棄物該当性を適正に判断されたいこと。

この行政処分指針の中に「廃棄物該当性」という章をわざわざ設けて、総合判断説について解説しているんだ。

総合判断説って難しいから1回聞いた位じゃ理解できないもの。

ただ、BUNさんとしては通知にある「野積みの状態が継続している場合」については、もう一つ別の「通知」も見ておいて欲しいんだ。

どんな?

平成12年に発出された通称「廃タイヤ180日通知」とこの業界では呼ばれている通知なんだ。
ネットで検索すれば出てくるけど、関係箇所だけ抜粋して紹介するね。

野積みされた使用済みタイヤの適正処理について(課長通知)
平成一二年七月二四日 衛環第六五号
野積みされた使用済みタイヤの適正処理について
五 使用済みタイヤが廃棄物であると判断される場合において、長期間にわたりその放置が行われているときは、占有者に適正な保管であることを客観的に明らかにさせるなどして、客観的に放置の意思が認められるか否かを判断し、これが認められる場合には、その放置されている状態を処分として厳正に対処すべきこと。

平成一二年七月二四日 衛産第九五号(室長通知)
二 前記通知五における「長期間にわたりその放置が行われている」とは、概ね180日以上の長期にわたり乱雑に放置されている状態をいうものであること。

具体的には?

廃タイヤをはじめ今回のテーマであるプラスチック類は食品廃棄物や有機性汚泥などとは違って腐らない。腐敗しないから長期間放置できる。しかも、今回の「使用済みプラスチック」のように、元々は「買ってきた」物もある。
これを長期に亘り「保管」している状態の判断はなかなか難しい。

そうだよね。買ってきた本人は「有価物の保管だ」と主張するでしょうし、
一方で付近住民は大量の廃タイヤが野積みされたら、そりゃ騒ぎ出すよ。

そこで、いくら腐敗しない廃タイヤであっても、売り渡し、搬出の実績も無く半年も「放置」しているようなら、それは「廃棄物だ」と判断してよい。
そして、それは「保管」ではなく「捨てている」「処分している」と判断してよい、という趣旨なんだよ。

この通知が発出された平成12年という年は、
おから裁判の最高裁判決が出た翌年なんだけど、大規模不法投棄や廃タイヤの大量野積みなどが問題にされていた頃で、それまでとは比較にならない位、厳しめの内容になっている。

この「廃タイヤ180日放置」と同じような状況が20年後に再び登場しかねないってなった訳だね。

そうだねぇ。原料として買ってきた「使用済みプラ」を加工して「商品」に仕上げていたのに、中国が買ってくれなくなり在庫の山になる。
当人は「商品の在庫」と思っていても、何ヶ月も売れずに資金繰りに困ってしまい「放置」されているようなら、それはもう「廃棄物」となってしまうよってことが通知のこの部分なんだね。

そういった「物」を原料として加工しているなら、「産業廃棄物中間処理業の許可をとってやってくださいね」ってことですね。
でも、事業者としては、需要は無くなり収入が少なくなるときに、今までは足枷無くやってきた行為に、これからは「許可を取ってやってください」と言われるのは酷だね。

8.「通知」が求められた訳は

さて、話を戻して、
前回、宿題に残して置いた「受け皿の能力は十分と思われるのに、なぜ通知は発出されたのか」に答えてくださいな。

既に皆さんもおわかりのこととは思いますが、では改めて。

このシリーズの「その2」の話に結びつくんだけど、「物」が廃棄物だからこそ、「廃プラスチック類の排出量」に計上されてきていた。

「年間700万トン」って量ですね。

だから、最初から「使用済みだけど買い取られていた」量は、廃棄物じゃないんだから「年間700万トン」の中には入っていない。
ところが、一番後(川下、お尻)の方の中国が「買い取り辞めました」となると、さっきのサンダル工場の話のように、インプット側も買い取りは難しくなる。排出時点から処理料金を貰わなければならない、という事態になる。

そうなると、今まで有価物として廃棄物の統計には表れてこなかった「量」が、廃棄物の排出量にどんとプラスされちゃうってことか。

いわば「潜在的廃棄物量」みたいなものだね。これがどの程度あるのかがわからない。
海外に輸出されていた量は「150万トン」って通知には書いてあったけど、これが全て廃棄物に廻るのか、そもそも、これは国内で再生されて廃棄物から有価物に変わっていた量なのか、はたまた、排出時点から有価物であったのか、もよくわからない。

加えて、輸出だけじゃなく、国内で有価物として流通していた「使用済みプラスチック」も、廃棄物となって廃棄物処理ルートに流れ込んでくる可能性もあったってことですよね。

そうだねぇ。だから、単純に「排出量700万トン、破砕施設能力800万トン。よって、十分大丈夫」って話じゃなかったんだろうね。

なるほどね。「転ばぬ先の杖」ってことで、
環境省は早め早めの対策を取ったってことなんでしょうね。

そうだねぇ。その「転ばぬ先の杖」が「その1」で概略見てきた「施設整備の補助制度」だったり「市町村の一般廃棄物処理施設での受け入れ」だったりってことですね。
それもあってか、結果としては心配されたほどの混乱は無くて、今日に至っているって言えるんじゃ無いかなぁ。

それに廃プラスチック類に特化したプラ資源循環法も施行されたわけですしね。

今後の廃プラスチック類対策がどうなるかを推測するうえでも、排出の状況、そのトレンド、受け皿の整備状況、潜在的廃棄物量の考え方等役に立ったと思います。

そう言って頂くと4回に亘ってこの通知を解説した甲斐もあったというものです。

じゃ、「まとめ」をして、「廃プラ処理の円滑化通知を読む」は終了としたいと思います。

<今回のまとめ>

  1. 製造工程が同じでも、原料が廃棄物なら「廃棄物の処理を兼ねた」製造となり許可が必要になる。
  2. 中国の輸入禁止により「使用済みプラ」は有価物から廃棄物に転落する可能性が増大した。
  3. それまでは「許可不要」であった「行為」が「許可必要」となり、「商品の在庫」は「廃棄物の保管」となってしまうリスクがあった。
  4. 「物」が有価物か廃棄物かは総合判断説。行政処分指針では「廃棄物該当性」という章で解説している。
  5. 20年前に発出された「廃タイヤ180日通知」も参考になる。
  6. 今まで有価物であった「量」が廃棄物になってしまうことにより、受け皿(処理施設)の必要な処理能力も変わる。