リヴァックスコラム
第8回 タスクフォース通知を読む その2
「BUNさんに聞いてみよう」のコーナー。「タスクフォース通知を読む」その2
※タスクフォース通知… 正式名称を「第12回再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(令和3年7月2日開催)を踏まえた廃棄物の処理及び清掃に関する法律の適用に係る解釈の明確化について」という通知のこと
前回から令和3年9月に発出されたタスクフォース通知を取り上げています。
今回は続きの「第2」からでしたね。じゃ、お願いします。
「タスクフォース通知」の「第2」は「実験・実証」についてです。
ただ、この話は数年前に一度取り上げていて、リヴァックスコラムにも、さらにこのコラムを単行本にした拙著「廃棄物処理法の重要通知と法令対応」にも掲載されている内容と大差ありません。
それなら皆さんご存じのはずなのに、
なぜ、またタスクフォース通知で取り上げられたのでしょうか。
それは前回の「その1」でも書きましたが、法令や過去の通知で言っているにもかかわらず、そのとおりに動いてくれない自治体はじめ世の中なので、関係者が再度国に要望したってことでしょうね。
では、知っている人にとっては「今更か」と思われるでしょうけど、今回の通知で復習してみましょうか。
第2 「「規制改革・民間開放推進3か年計画」(平成17年3月25日閣議決定)において平成 17 年度中に講ずることとされた措置(廃棄物処理法の適用関係)について」(平成18年3月31日付け環廃産第060331001号通知)の「第二 産業廃棄物を使用した試験研究に係る規制について」の適用について
先ほど話したとおり、また、この見出しで書いてあるとおり、この事項は「平成18年3月31日付け」通知で言っていることなんですね。
それなのになぜ繰り返したんでしょうか?
続きを見てみましょう。
環廃産発第060331001号の「第二 産業廃棄物を使用した試験研究に係る規制について」においては、「営利を目的とせず、学術研究又は処理施設の整備若しくは処理技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究を行う場合」の許可の取扱い及び判断方法が示されているが、本取扱い及び判断方法については、メタンガス化施設を試運転する際に、産業廃棄物である下水汚泥を種菌として利用する場合においても適用できることとする。
この文章から推測するに、一部の自治体では「実験、実証と言っても通常の一般的に見られる「ごみの焼却」とか「がれきの破砕」とかいうレベルのものでしょ。」という意識で下水道汚泥を対象にして大々的に行うメタンガス化事業まで適用するとは思わずに、原理原則通りに「許可取ってからやってよ」という指導したところがあったんでしょうね。
すみません。BUNさん、今更で申し訳ないんですけど、
この「実験・実証」ってどんなことで、なにがポイントなんでしたっけ?
えぇー(◎o◎)/。リヴさん、リヴァックスコラム読んでなかったの?今やリヴァックスコラムは廃棄物処理に携わる人にとっては必読だよ。しょうがないなぁ。簡単におさらいしておきましょう。
他人の廃棄物を処理する時は「処理業の許可が必要」。
一定の廃棄物処理施設を建設する時には「処理施設設置許可が必要」だね。
無許可営業、無許可設置は重大な違反で最高刑懲役5年でしたね。
そんな重大な違反行為なんだけど、世の中で初めてやってみる、たとえば特許を取れそうな手法、技術だって時は、上手く行くか失敗するかわからない。多分、9割方失敗する方が多いでしょうね。そんな時に一回一回許可取っていたら技術は進歩しない。特に「処理業」より「処理施設」については言えることだね。
そこで、「実験・実証」の時は許可を取らなくてもやれるようにしよう、という内容。
ただ、なんでもかんでも「許可不要」となると悪徳業者は、やたらなことをやりかねない。行政もそれを警戒して「実験・実証」をとても厳しく制限してしまう。そこで一定のラインを示してくれ、となって、平成18年3月31日付け通知になったってことでしたね。
思い出しました。
たしか、実験実証の時は許可が要らないけど、あらかじめ行政庁に一定の事項を届け出ていて、必要最小限の量と期間でやってくださいねって内容でしたね。
そう。だから今回の通知も、それを確認しただけなんだけどね。
ただ、今回の通知に繋がった事案はちょっと複雑だったのかもしれないね。
続きを読んでみよう。
また、本取扱い及び判断方法は中間処理業者による処理に伴い排出される産業廃棄物についても適用されるが、当該産業廃棄物の排出又は中間処理が行われる都道府県又は政令市(以下「都道府県等」という。)と、当該産業廃棄物を使用した試験研究が行われる都道府県等が異なる場合は、必要に応じてあらかじめ当該都道府県等の間で、当該産業廃棄物の管理方法等について協議を行っておくことが望ましい。
あくまでも個人的な憶測だけど、実験実証をやろうとした事業者は、リサイクルプラントを設置する県には平成18年の通知に従って「実験実証」の届出をした。そして実験実証を開始したところ、残渣物が発生した。
「メタンガス化施設を試運転する際に、産業廃棄物である下水汚泥を種菌として利用する場合」と書いてあるから、嫌気発酵させてメタンガスを取りだした後の「汚泥」かなぁ。その残渣物は当然ながら適正処理しなければならない。その処理先がリサイクルプラントを設置している県とは別の県の処理施設だった。
そのため、受け入れ施設がある県では「実験実証なんて聞いてないよ。うちの県には届出もきていないし。そもそも、実験実証はメタンガスを取り出すところまででしょ。その残渣物については原理原則通り許可の対象になるんじゃないの。許可取ってやってよ。」なんてトラブルが起きたんじゃないかなぁ。
はぁはー、それで「実験実証」という内容はその実験実証試験だけでは無くて、「処理に伴い排出される産業廃棄物についても適用される」と確認して、さらに「あらかじめ当該都道府県等の間で協議」しててねってダメ押ししたんですね。
そんなところだと思うよ。
ところで、この通知はどこまで影響を及ぼすんでしょうか?
と言うのは、今回のタスクフォース通知では「メタンガス化施設を試運転する際に、産業廃棄物である下水汚泥を種菌として利用する場合」ってしてるけど、し尿処理施設からも性状的には似たような汚泥は出ると思うし、最近しきりに行われるようになった「動植物性残渣」のメタン化や液肥へのリサイクルもありますよね。どうなんでしょうか?
今回のタスクフォース通知ではあくまでも下水汚泥のメタン化について述べていて、他のケースについてはやはり平成18年3月31日付け通知のしたがってやってねってことまでしか言えないでしょうね。
実はここがタスクフォース通知の限界でもあると思う。
どういうこと?
そもそもになるけど、改めてこのタスクフォース通知の最初の部分をみてみようか。
各都道府県・各政令市廃棄物行政主管部(局)長 殿
環境省環境再生・資源循環局廃棄物適正処理推進課長
廃棄物規制課長(中略)
貴職におかれては、下記の事項に留意の上、その運用に遺漏なきを期されたい。
なお、本通知は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項の規定に基づく技術的な助言であることを申し添える。
このどこがポイントなの?
まず、宛先が「各都道府県・各政令市」。市町村ではない。
「各都道府県・各政令市」は産業廃棄物業務を国から「法定受託事務」として任せられている「機関」。だから、さっきまで見てきた通知の文章でも「産業廃棄物」についてはコメントしているけど、「一般廃棄物」や「廃棄物」ということについては触れていない。
それは一般廃棄物に関する業務は市町村の「自治事務」だから。
「自治事務」というのは、そもそも自分たちの権限で責任も自分たちにあるって考えでしたよね。
そう。一般廃棄物に関しては国や都道府県は権限を持っていない。
たとえて言うなら「よその家の出来事」なんだね。「よその家の出来事」だから、余程のことが無いと口出し出来ない。
よそのお家でお庭にパンジー植えようが応接室に畳を敷こうが隣のうちがどうこういうことじゃないわね。さすがに家庭内暴力なんてレベルになれば関与するかも知れないけど。
そうだね。廃棄物処理法でも法律の規定と違う行政をやっているのであれば、口も出すかも知れないけど、今回の通知の内容レベルは「どの程度で行政を運営していきましょうか」のレベルなんでしょうね。
さらに文末では「技術的な助言」、すなわち「アドバイス」であり、この通知内容の最終的な判断権限は都道府県にありますよってレベルなんですね。
通知の直接の相手方である都道府県に対しても「アドバイス」レベルで、市町村について触れてもいないってことですか。そうは言われても市町村としては困るわよね。
そうだね、さっきのリヴさんの質問にあった「し尿処理施設からの汚泥」や「飲食店から排出される動植物性残渣」なんかは一般廃棄物だから、市町村の権限だからねぇ。
このたてまえとしてはこのタスクフォース通知の権限の及ぶ範囲ではないってことになるね。
どうしたらいいの?
市町村の自治事務、すなわち一つ一つの市町村で独自に判断してね、と言われても、ほとんどの市町村は判断に困るでしょう。
それでたいていは「産業廃棄物と同様に」ということになると思う。
そうしておけば、万一裁判や行政不服が提示されたときの理論武装がしやすいですよね。
そんな訳で、たてまえとしては都道府県あてのアドバイスであっても、一般廃棄物も含めて、大抵の場合は、この通知の方向に世の中は動いていくってことかな。
あっ、この話はリヴァックスコラム、「重要通知と法令対応」の最初に書いてあった事よね。
リヴァックスコラムのバックナンバーの価値を改めて実感しました。
次回はタスクフォース通知の「第3」の予定です。じゃ、またね。