リヴァックスコラム

第9回 タスクフォース通知を読む その3

長岡 文明氏

「BUNさんに聞いてみよう」のコーナー。「タスクフォース通知を読む」その3

※タスクフォース通知… 正式名称を「第12回再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(令和3年7月2日開催)を踏まえた廃棄物の処理及び清掃に関する法律の適用に係る解釈の明確化について」という通知のこと


前回から令和3年9月に発出されたタスクフォース通知を取り上げています。

今回は続きの「第3」からでしたね。じゃ、お願いします。

「タスクフォース通知」の「第3」は「地下工作物」についてです。

「地下工作物」というのは具体的には「地下鉄」や「トンネル」なんかですか?

まぁ、そういった物も含まれるでしょうけど、
イメージしやすいものとして浄化槽の地下タンクとか、橋やビルの「土台」かな。

それが、どうして廃棄物処理法の課題になるの?

地上に建てられたお家やビルが古くなって建て替えられる時ってどうしますか。

当然ながら、壊しますね。解体工事ですね。

その時廃棄物が出てきますよね。それはどうしますか。

木くずやコンクリート殻とか出ますね。
そういった時は「建設系廃棄物」に該当するから第21条の3第1項の規定により、工事の元請業者が排出事業者となり適正に処理しますよ。

じゃ、その建物を解体した後の跡地は更地にして、その後は駐車場として使用する時は、家やビルの土台となっていた地下の「基礎」のコンクリートはどうする?

駐車場として使用するなら、地下に「元基礎」のコンクリートがそのままになっていてもなんら支障ないから、少しでも解体工事代を安くあげるために「そのまま」にしたいよね。

じゃ、跡地を駐車場にするのでは無く、新しくお家を建てる場合、
また「元基礎」ではなく、残されるのが「地下タンク」だったらどうかなぁ。

それなら解体するときに、ちゃんと掘り起こしてねって言うよね。
だって、お家を建てた後に地盤沈下なんか起きたら困るよ。

では、上屋(地上部分)を解体した時の木くずや、がれきをそのまま放置していたらどうだろうか?

それは明らかに不法投棄ってなるんじゃないですか?

建物は建っているうちは廃棄物処理法を適用しないと思うけど、解体した後は廃棄物処理法を適用するんだから。

ここまでのやりとりを踏まえて、次の質問に答えて。

ビルを解体します。上屋(地上部分)は解体しますが、地下の部分は「そのまま放置」してもいいですか?

なるほど。
廃棄物処理法ではいくら古くなっても建築物が建っている間は廃棄物処理法を適用しない。
でも、解体してからは「解体工事によって廃棄物が排出される」と考えて、そこから以降は廃棄物処理法が適用される。

そうなると、解体工事の時に目では見えない残される「地下の部分」に廃棄物処理法は適用されるのかってことが課題になる訳ですね。

そのとおり。それがこの「地下工作物」の難しさなんだ。

じゃ、そんなことを踏まえてタスクフォース通知を見ていこうか。

第3 地下工作物の取扱いについて
地下工作物の存置については、一般社団法人日本建設業連合会において「既存地下工作物の取扱いに関するガイドライン」(2020年2月)が作成されている。次に掲げる①から④までの全ての条件を満たすとともに、同ガイドライン「3.2.3 存置する場合の留意事項」に基づく対応が行われる場合は、関連事業者及び土地所有者の意思に基づいて地下工作物を存置して差し支えない。

この通知では「①から④までの全ての条件を満たすとともに、同ガイドラインの留意事項に基づく対応が行われる場合」として、相当、条件を厳しくしているんですね。

どうしてこんなに厳しい条件を設定したんですか?

それについてはこの通知に登場している一般社団法人日本建設業連合会が作成したガイドライン「3.2.3 存置する場合の留意事項」に引用されている旧厚生省が発出した疑義応答があるんだ。

その部分だけでもつまみ食い的にみてみようか。

昭和56年(57年改訂)の疑義応答問11
(地下工作物の埋め殺し)
間11 地下工作物が老朽化したのでこれを埋め殺すという計画を有している事業者がいる。この計画のままでは生活環境の保全上の支障が想定されるが,いつの時点から法を適用していけばよいか。
答 地下工作物を埋め殺そうとする時点から当該工作物は廃棄物となり法の適用を受ける。

この考え方に従えば、地下工作物を埋め殺す行為は、不法投棄になっちゃうってことですね。

う~ん。短絡的に「不法投棄」と判断するのもまずいかな。
と言うのは、質問に「生活環境の保全上の支障が想定される」と形容詞が付いているよね。
じゃ、「生活環境の保全上の支障」が想定されない状態ならよいのか?その状態ってどういう状態なのか?

また、不法投棄ではなく「最終処分」としての「埋立」になるのではないか、と言った要点が出てくる。

めんどくさいですね…。それに今から40年も前の通知なんだから、これ以降にもっと明確に示した通知なんかあるんじゃないの。

この通知は平成12年12月に地方分権一括法の関係もあり廃止されているけど、BUNさんの知る限り「地下工作物」に関し国が公式に疑義に応じた例はこれだけなんだ。

日本建設業連合会のガイドラインでも、次のようにコメントしているんだ。

多くの自治体は「原則撤去」を基本スタンスとしている。これは、昭和 57 年(1982 年)に当時の厚生省環境衛生局が発出した廃棄物処理法の疑義照会(地下工作物の埋め殺し)に基づいて指導を行っているためと思われる。この疑義照会は平成 12 年(2000 年)に廃止されたものの、これに代わる判断基準がないため、現在も判断の拠り所とされていると思われる。

よって、既存地下工作物が撤去すべき産業廃棄物か否か、自治体と発注者等が共通に参考にできる新たな評価・判断の目安を示すことが課題として挙げられる。

併せて、「不要となった時点で撤去すべき」とする自治体が多いことから、何をもって「不要となった時点」とするかを明確にすることが望まれる。

「明確にすることが望まれ」ていたので、今回のタスクフォース通知に繋がった訳ですね。

もちろん日本建設業連合会も一般社団法人として権威のある組織ではあるけれど、廃棄物処理法を所管する環境省からも「お墨付き」が欲しいってこともあったんじゃないかな。

お墨付きを与える意味で、タスクフォース通知でも一定の条件の下だけど
「ガイドラインに基づく対応が行われる場合は、地下工作物を存置して差し支えない。」
とした訳だね。

そうだね。
ただ、注意しなければいけないのは「存置して差し支えない。」のは、このガイドラインに基づいてやったときであり、これ以外の場合はやっぱり「不法投棄」と判断されるから「掘り起こしておく」ことが原則ですよってことですね。

ん?原則はわかったけど、さっき私が「不法投棄」って言ったときにBUNさんは「最終処分」って文言も出していましたね。

「最終処分」はどうなったの?

実は、平成9年までは「ミニ処分場」が容認されており、安定型産業廃棄物である「がれき類」は3000㎡までは「届出」も「設置許可」も不要でだったんだ。

だから、「廃棄物の埋立に該当するが、ミニ処分場であり、特段生活環境保全上の支障も発生していないことから、違法とはいいきれない。」などという理論構成もあったんだよ。

でも、ミニ処分場が制度として認められなくなって以降は、この理屈は使えなくなったんだ。

へぇぇ、「ミニ処分場」ねぇ。
大先輩から言葉は聞いたことあったけど、許可や届出も無くて、廃棄物を埋めてもいいってことなら、「残る土台は廃棄物ですけど、ここはミニ処分場ということで」合法だったのね。

現在でも日本全国には、それまでの「ミニ処分場」の跡地は数え切れないほどあると思うよ。
なにしろ、許可も届出も要らなかったんだから行政も把握しようが無いんだ。

まっ、その話はまた何かの機会にってことにして、話を元に戻しましょう。

「存置して差し支えない。」要件を教えて下さいな。

じゃ、とりあえず今回の通知に示されている要件から見ていこう。

① 存置することで生活環境保全上の支障が生ずるおそれがない。

② 対象物は「既存杭」「既存地下躯体」「山留め壁等」のいずれかである。

③ 地下工作物を本設又は仮設で利用する、地盤の健全性・安定性を維持する又は撤去した場合の周辺環境への悪影響を防止するために存置するものであって、老朽化を主な理由とするものではない。

④ 関連事業者及び土地所有者は、存置に関する記録を残し、存置した地下工作物を適切に管理するとともに土地売却時には売却先に記録を開示し引き渡す。

①の「生活環境保全上の支障」が出ないこと、④の記録、管理は当然のこととしてわかります。②はどういうことですか?

この要因については土木の専門的なことも出てくると思うからガイドラインも見て欲しいんだけど、まぁ、わかりやすい一例としては「いくら地下工作物であったとしても、プラスチック製のタンクなんかはだめだよ。」ってことでしょうね。

杭や躯体は空洞は無くて丈夫そうだけど、タンクはいつか壊れて陥没が起きそうだものね。
③はどうなの?

撤去するとかえって悪影響を及ぼすから「存置」するのであって、単に経費的な要因から「存置」するってことは理屈にならないよってことでしょうね。

聞いてみれば、まぁ、当然のことですね。

で、ガイドライン「3.2.3 存置する場合の留意事項に基づく対応」と言うのは?

「3.2.3 存置する場合の留意事項」として、(1)全般的な留意事項と(2)工学的な留意事項についてコメントしている。内容的には土木工学的な専門的な技術的なことと、今まで述べてきたような社会常識的なことも書いてる。2頁程度なので実際に関係する人は一度は目を通しておくといいと思うよ。

まぁ、そうは言ってもその前にタスクフォース通知の最後の部分と、紹介から洩れた4つの要件の前に記載されている部分を紹介しておこう。

<4つの要件の前の文章>
なお、存置の対象となるのは、コンクリート構造体等の有害物を含まない安定した性状のものに限られる。また、戸建住宅の地下躯体は対象に含まれない。

<最後の文章>
なお、地下工作物を存置する場合においても、石綿含有建材やPCB使用機器などの有害物、これら以外の内装材や設備機器などは全て撤去すべきものである。また、地方公共団体が上記の①から④までの条件を満たしていないと判断した場合は「廃棄物」に該当し得るとともに、生活環境保全上の支障が生じ、又は生ずるおそれがあると認められると判断した場合は、当該地下工作物の撤去等、その支障の除去等の措置を講ずべきことを命ずることが可能である。

2つの「なお」書きを見ると、なんかゼネコンが関わるような大規模事案しか「存置」は関わらないみたい。容易に掘り起こせる「戸建住宅の地下躯体は対象に含まれない」し「有害物」はもちろんのこと「内装材や設備機器などは全て撤去すべき」ですよね。

そうだねぇ。加えて「地方公共団体が上記の①から④までの条件を満たしていないと判断した場合は「廃棄物」に該当し得る」ともある。
だから、解体業者が「4条件を満たしている」と考えても、地元の自治体が「4条件を満たしていない」と判断すれば、「物は廃棄物」、したがって「不法投棄(または、無許可の最終処分場設置)」となってしまう可能性もあるってことだね。

そんなこと言われたら、事業者としては勝手に決断実行できないです。

現実的には、こんな事案にぶつかったら、とりあえずは地元の自治体と事前に協議して進めるのが無難だってなるよね。

なんかなぁー。そんなんだったらタスクフォース通知を発出した意味がないように思えるけど。

いやいや、そうでもないよ。
地下工作物については前述の通り古い通知しかなかった。現実的に不可能な事案もあり、そういう事案では事業者も行政も踏み出せず、踏み出したとしてもおっかなびっくり決断しかなかった。それを土木的な知見も取り入れて一定の「基準」を公文書として示したってことは大きな一歩だよ。
今回のタスクフォース通知では一番意義があったのはこの「第3地下工作物について」だとBUNさんは感じているよ。

皆さんは今回のタスクフォース通知をどのように感じましたか?

次回はまた違ったテーマでお送りしたいと思っています。じゃ、またね。