リヴァックスコラム

第23回 一般法と特別法について考えてみよう

長岡 文明氏

みなさん、こんにちは。「BUNさんに聞いてみよう」というコーナーでやっていきているのですが、メールをいただきました。

最近廃棄物処理法を担当することになりました。
リヴァックスさんの当コラムは参考になりバックナンバーを読んでいるのですが、2017年「第8回 排水について」で取り上げています「一般法と特別法」の関係が今ひとつ理解できません。
再度、取り上げていただけませんか。

バックナンバーまで読んでいただけるなんて、うれしい限りです。
なんとしても、リクエストにお応えしなくては。ですよね。センセ。

ん~、そうは言っても、あの時も手を抜いて書いている訳では無くて、いつも、いつも「これで完璧」と思って書いているだけに、あれ以上のことを書けるかなぁ。

そんな身も蓋もないこと言わないください。

じゃ、前回は「排水」を例に取ったんだけど、今回は別の事例にしてみようか。
添付した文書を見て下さい。

どれどれ、平成31年、この年は5月から令和に年号が変わった年でしたね。
まだそんなに昔の通知じゃないんですね。

正確に言うと「事務連絡」と言いまして、公文書としての「通知」よりはランクが落ちるといいますか、まぁ、担当者から担当者への「お手紙」と言った位置付けでしょうかねぇ。とは言っても、役所間同志でのやりとりですから、たいていの行政機関では「そのとおり」に運用することになりますね。

環境省からは事務連絡として「畜産業者による廃棄物処理法違反の防止について(依頼)」ですが、農水省からは正規の通知として「愛知県の養豚場における豚の死体の不適切な扱いについて」って題名ですね。

具体的にはどういうことになりますか?

このコラムを読んでいる方は、廃棄物処理法に携わっている方が多いと思うので、まず、廃棄物処理法から確認しましょう。

廃棄物処理法では、家畜の死体はどのように処理しなければなりませんか?

リサイクルして飼料や肥料にするという方法もあるけど、
単純処理なら「焼却」と「埋立」でしょうね。

では、適正な「焼却」「埋立」はどのようにしなければならないか?

いろいろと詳細な処理基準はあると思うけど、端的に言えば「許可の出ている焼却炉」「許可の出ている最終処分場」で処分しなければならないでしょうね。

「許可の出ている焼却炉」で処分していない場合は?

それはいわゆる「野焼き」、不法焼却。
第16条の2違反として、最高刑懲役5年の違反行為です。

「許可の出ている最終処分場」で処分していない場合は?

それは不法投棄。第16条違反として、やはり、最高刑懲役5年の違反行為です。

大正解。一方、家畜伝染病予防法では次の規定があるんです。(抜粋)

(死体の焼却等の義務)
第二十一条 次に掲げる家畜の死体の所有者は、家畜防疫員が農林水産省令で定める基準に基づいてする指示に従い、遅滞なく、当該死体を焼却し、又は埋却しなければならない。(中略)
3 第一項の規定により焼却し、又は埋却しなければならない死体は、家畜防疫員の許可を受けなければ、他の場所に移し、損傷し、又は解体してはならない。

要約すれば、家畜伝染病で死亡した家畜の死体は移動せずに、その場所で「焼却」か「埋却」しなければならないってルールです。

伝染病に罹患した家畜を移動したら、ウィルスや細菌が周囲にまき散らされて、
ますます伝染病が広がるリスクが高まる訳ですから、そりゃ、当然と言えば当然ですね。

さて、そこで・・・です。廃棄物処理法では設置許可の出ている焼却炉や埋立地での処分を規定しているのに、家畜伝染病予防法では、「その場(畜舎、その敷地内)での焼却か埋却」を規定している。

こちらを立てればそちらが立たず、みたいな状態ですね。
どっちかのルールには違反してしまうことになる。

この時どっちを「優先させるか」というルールが「特別法優先」、「特別法は一般法に優先する」というものです。

今回の「通知」では、「廃棄物の処理」という趣旨では廃棄物処理法は世の中の廃棄物に広く適用されるルール。一方、家畜伝染病予防法では「家畜伝染病で死亡した家畜の死体」という特殊な廃棄物についてだけ適用されるルール。
よって、このケースでは家畜伝染予防法が適用され、廃棄物処理法は適用されないってことですね。

そのとおりです。廃棄物処理法は「廃棄物の処理」については一般法。家畜伝染病予防法は「廃棄物の処理」という点では特別法にあたるということです。
ちなみに、2017年のコラムで取り上げていた事例では、「排水」については、水質汚濁防止法が特別法にあたることから、一般法にあたる廃棄物処理法は適用しない、というものでしたね。

これが「特別法は一般法に優先する」ということですね。では、改めて今回の「事務連絡」「通知」を解説してみてください。

農水省は「事業を行う側」として、環境省は「規制する立場」として発出していますね。
質問者のよしのさんの疑問の「一般法と特別法」のポイントは環境省事務連絡の次の箇所です。

「患畜又は疑似患畜の処理については、家畜伝染病予防法(略)に従って適正な処理を行う必要があることをこれまでも通知等で周知してきたところですが、産業廃棄物である動物の死体については、同法に従った処理を行わない場合は、廃棄物処理法に従い、適正な処理を行う必要があります。」

「同法に従った処理を行わない場合は」とありますから、これを裏読みすれば、
「同法に従った処理」をすれば、「廃棄物処理法に従わなくてもよい」と読めるってことになりますね。例えて言うなら、課長に言われてやっていたんだけど、社長に反対のことを命令された。どっちに従ったらいいかって問われたら、そりゃ、社長の命令でしょ。課長の言うことには従わなくていいよね。だって、社長の方が課長より偉いんだから・・・みたいなことかな。

「偉い」「偉くない」って表現はいかがなものかとは思うけど、まぁ、感覚的にはそんなものかな。これが「特別法は一般法に優先する」ってことなんだ。

質問者は、この「優先する」ってことが今ひとつ分かりにくかったってとこかな。

「そもそも論」から説明してみるね。そもそも、人間は自由なんだ。生まれながらにして物理的に「できる」ことは「やってもいい」。

たとえば、「歩けるんだったら歩くのは自由だ」「笑うのは自由だ」みたいなことね。

ところが、Aさんの自由はBさんの自由を侵すこともあり得る。「歩くのは自由だ」と言って、AさんにBさんの家の中を勝手に歩き回られたらBさんは困るでしょ。

そうだね。いくら自由だと言っても、人の物を奪う自由とか人をぶん殴る自由とかは困るよね。

そこで、他人の自由を侵害したり社会秩序を乱すような行為は制限するようになる。社会のルール。これが法治国家なら「法律」ってことになる。

ここまでは理解できてるよ。じゃ、続けて。

ところが、そのルールがバッティングをしてしまう時がある。

「赤信号では停まりましょう」というルールと「急病人を一刻も早く病院へ届けよう」というルールはバッティングしちゃうでしょ。そこで、「救急車は赤信号でも停まらなくてもいい」という「特別ルール」を作るわけだ。さて、通常のルールと特別ルール、どちらを優先させるべきでしょうか。

そんなの、特別ルールが優先することは明白でしょ。

そうだねぇ。でも、当然ながら、この特別ルールが適用されるのは救急車だからでしょ。そこで、さっきの「事務連絡」に戻ってみると「患畜又は疑似患畜の処理については、」って特別ルールが適用されるケースは限定されている。その「特別ルール」が「家畜伝染病予防法」なんだ。
このことをもっと具体的に書いてある「通知」がある。

平成31年の事務連絡の中にも「これまでも通知等で周知してきたところですが・・・」って書いてますね。具体的には?

この事務連絡の前だと次のかな。関係箇所を抜粋してみましょう。

家畜伝染病予防法に基づく患畜の死体等の処理体制の整備の徹底について
平成二一年一二月二五日 


都道府県家畜衛生主務部長殿
農林水産省消費・安全局動物衛生課長
 家畜伝染病予防法(中略、以下「家伝法」という。)に基づき家畜防疫員の指示の下で行
われる家畜の死体等の焼却及び埋却については、家伝法は家畜の伝染性疾病のまん延防止等の観点から、緊急時の措置を規定するものであるため、廃棄物処理法の規定に優先して適用されるため、家畜伝染病予防法施行規則(中略)別表第2に掲げられた基準を満たすと認められる場所であれば、廃棄物処理法に基づく廃棄物処理施設の許可の有無にかかわらず実施可能であること。

明確に「廃棄物処理法の規定に優先して適用される」って書いてますね。

この通知では、この箇所の前後でも重要なことを書いてるよ。
「家伝法は家畜の伝染性疾病のまん延防止等の観点から、緊急時の措置を規定するものである」という部分と「家畜伝染病予防法施行規則(中略)別表第2に掲げられた基準を満たすと認められる場所であれば」という部分です。

なんでも、かんでも「優先する」ってことじゃない訳ですね。

そうだねぇ。だから、ハード的には全く同じ「施設」「やり方」であっても、「家畜の伝染性疾病のまん延防止等の観点」ではない時は「優先しない」。
また、いくら「緊急時の措置」であっても「家畜伝染病予防法施行規則の基準」は満たさなければならないってことになりますね。
実は、このことが平成31年の「事務連絡」「通知」の発出に繋がった。

この部分ですね。
「立入検査及び精密検査の結果、今回の事例は豚コレラではありませんでした(中略)死体を適切に処理しなかった場合には、廃棄物処理法に抵触するおそれがあります。」

そうだね。家畜伝染病予防法が適用されるケースだからこそ、廃棄物処理法が適用されない。
家畜伝染病予防法が適用されないケースでは、廃棄物処理法が適用される。

そうなると、家畜の死体を焼却した行為は、第16条の2「不法焼却」いわゆる「野焼き」となるし、その辺に埋めてしまった行為は、第16条「不法投棄」に該当しちゃうよってことですね。

不法焼却も不法投棄も最高刑懲役5年が規定されているとても重い違反。
そういうことがないように、というのが平成31年の「事務連絡」と「通知」の趣旨ですね。

今回の「患畜」についてはなんとかわかったような気にはなったけど、
どんな状況の時にはどんな法律が一般法に当たり、どんな法律がその特別法にあたるの?

今回の質問の急所を突く、難しい質問だね。それぞれの法律の条文では「このA法律は、Bという法律の特別法にあたる」なんて明記している訳じゃ無い。
法律の学校では「商法は民法の特別法であり、宅建業法は商法の特別法にあたる」なんて例示しているらしいけど。

理系専攻の私にとってはお経を聞いているみたいだよ。
せめて、廃棄物処理法関連だけでも具体的に教えてよ。

廃棄物処理法がスタートした直後の施行通知には次のような一文があるよ。

廃棄物処理法は、固形状及び液状の全廃棄物(中略)についての一般法となるので、特別法の立場にある法律(たとえば、鉱山保安法、下水道法、水質汚濁防止法)により規制される廃棄物にあっては、廃棄物処理法によらず、特別法の規定によって措置されるものであること。
これで「鉱山保安法」「下水道法」「水質汚濁防止法」の3つ。

次に平成一四年一月一〇日付けのPCB特措法の施行通知の中に「(PCB)特措法は、廃棄物処理法の特別法としての性格を有するものであることから・・・」とあるので、「PCB特措法」

あと、極めて特殊なケースなんだけど平成一五年四月一四日の通知では、狩猟時おける「鳥獣保護法」もある。それに今回の「家畜伝染病予防法」

BUNさんが承知している廃棄物処理法の特別法として公式に登場する「通知」は、こんなところかなぁ。

質問者のよしのさん、こんなところで満足いただけましたでしょうか?
足りないとき、また、別の疑問でも遠慮なくメールくださいね。

<今回のまとめ>

  1. 法令で世の中全般に適用されるのが「一般法」。特殊なケースの時に適用されるのが「特別法」。
  2. 違う法令の規定がバッティングを起こしたときには、特別法は一般法に優先する。
  3. 廃棄物処理法は「廃棄物の処理」に関しては、「一般法」になる。
  4. 「廃棄物の処理」に関して、「特別法」にあたる法令として過去の「通知」で例示されているものに、鉱山保安法、下水道法、水質汚濁防止法、PCB特措法、家畜伝染病予防法、鳥獣保護法がある。
  5. 特別法が適用にならない場合には、一般法である廃棄物処理法が適用になるので、十分注意する必要がある。