リヴァックスコラム

第33回 【特別企画】「再資源高度化法」の政省令案について考える

長岡 文明氏

ん~、それがなかなか。
と言うのは、今回提示された政省令で再資源高度化法全ての政省令では無いようなんです。

それってどう言うことなの?

昔からある、理容師法とか旅館業法などは政令も省令も1つずつというのが多かったけど、法律は一つでも、それに関係する政省令は複数出されているものも結構あるんですよ。

たとえば、廃棄物処理法でも「最終処分場基準省令」という最終処分場に関する省令や有害金属の判定を行う際の「判定基準省令」といった別出しの省令もあるんですよ。

へぇ、うちの事務所にある廃棄物処理法の法令集は「廃棄物処理法三段法令集」で規則正しく「法律」-「政令」-「省令」と三段書きになっているから1つずつかと思ってた。

で、今回提示された再資源高度化法の政省令案と言うのはどんなことなんですか。

まず、簡単なところから。

施行期日が法律の附則で次のように規定している。

(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一 次条及び附則第五条の規定 公布の日
二 第二章、第三章第一節、第四十六条及び第四十九条の規定 公布の日から起算して九月を超えない範囲内において政令で定める日

ん~、これだけでも、そもそも再資源高度化法の法律を見ないとわからないですね。

具体的に確認する前に、次のことはわかるよね。

まず、この法律は今年(令和6年)5月29日に公布した。
だから、遅くとも令和6年5月29日から1年半後の令和7年11月28日までは施行される。具体的な日は政令で決める。

次に一号の事項は公布の日からだから、令和6年5月29日から。

そして二号は「公布の日から起算して九月を超えない」だから、令和7年2月28日までは施行される。具体的な日は政令で決める。

つまり、3段階に分けて施行するってことですね。具体的には?

まず附則第1条第1号の「次条及び附則第五条の規定」を確認してみようか。

(準備行為)
第二条 環境大臣は、基本方針を定めるために、前条第二号に掲げる規定の施行の日前においても、関係行政機関の長に協議することができる。

と言うことなので、一般国民には関係しないことだね。
「法律は施行していないけど、環境省は準備(他省庁との擦り合わせ等)はしていいよ」という規定。

次に附則第五条。

(政令への委任)
第五条 この附則に定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。

これはまさに今回のように「法律は施行していないけど、経過措置は政令は制定はしていいよ」という規定。
で、今回出された政令が次の附則第1条第2号の「第三章第一節」に関わる部分。

ふ~ん。と言うことは、今回出されたのは、あくまでも関係政令の「一部」ってことね。

じゃ、さっそくその提示された政令案を紹介してちょうだいな。

ちょっと長いけど、ここは再資源高度化法に関係する人にとっては重要な箇所なのでそのまま紹介するね。

政令第  号(案なので現時点では番号は付いていない)
資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律第十条第一項の要件を定める政令
内閣は、資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律(令和六年法律第四十一号)第十条第一項の規定に基づき、この政令を制定する。
資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律第十条第一項の政令で定める要件は、次の各号のいずれかに該当することとする。
一 当該年度の前年度において処分(再生を含み、埋立処分及び海洋投入処分(廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四十五年法律第百三十七号)第十二条第五項に規定する海洋投入処分をいう。)を除く。次号において同じ。)を行った同法第十四条第一項に規定する産業廃棄物の数量が一万トン以上であること。
二 当該年度の前年度において処分を行った廃プラスチック類の数量が千五百トン以上であること。
附則
この政令は、資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律附則第一条第二号に掲げる規定の施行の日(令和七年二月一日)から施行する

いくつかポイントはあるけど、
まずさっきも話したように今回の政令は「法律第十条第一項の規定に基づき制定」されるもの。
つまり、他の規定よりも1歩早く規定しておかないと間に合わなくなる事項ということになるね。

そうですね。ほとんどの規定は「1年6ヶ月後」なのに、これは「9ヶ月後」だからね。

でも、それはどうして?

後で詳しく見ていくけど、ここに規定される「人物」は年間報告等の義務が出てくる。
だから、令和7年度の実績から対象にするためじゃないかなぁ。

じゃ、まずその「人物」を法律に立ち返って確認しておこう。

法律(勧告及び命令)
第十条 環境大臣は、産業廃棄物処分業者であって、その処分を行った産業廃棄物の数量が政令で定める要件に該当するもの(以下「特定産業廃棄物処分業者」という。)の再資源化の実施の状況が、第八条第一項に規定する判断の基準となるべき事項に照らして著しく不十分であると認めるときは、当該特定産業廃棄物処分業者に対し、その判断の根拠を示して、再資源化の実施に関し必要な措置をとるべき旨の勧告をすることができる。

この「特定産業廃棄物処分業者」を「政令で定める要件」としているでしょ。
それが今回の政令規定。

法律はこのメルマガでも何回かにわたって解説してもらったね。
「再資源化」について一定の義務、おそらく「再生資源化率」や「再生資源の状況の情報開示」だったね。

そうだねぇ。
これを中小零細なリサイクル業者にまで法律で義務付けるのは酷だろう、
ということで、いわゆる「裾切り」規定をしている。その裾切りがこの政令。

えっと。1号では1万トン。
2号では廃プラスチック類については1500トンの実績ですね。

そうだねぇ。「埋立処分及び海洋投入処分を除く。」だから、
いわゆる「中間処理」の実績が年間一万トン以上、廃プラスチック類については1500トン以上の処理実績がある「産業廃棄物処分業者」が、この再資源高度化法では「特定産業廃棄物処分業者」と位置付けられることになる。

ちなみに、この「特定産業廃棄物処分業者」が法律で登場するのは、
この第10条の「勧告及び命令」と第38条の(再資源化の実施の状況の報告)なんだ。

第三十八条 特定産業廃棄物処分業者は、毎年度、環境省令で定めるところにより、産業廃棄物の種類及び処分の方法の区分ごとに、その処分を行った産業廃棄物の数量及びその再資源化を実施した産業廃棄物の数量その他環境省令で定める事項を環境大臣に報告しなければならない。

まぁ、この規定が適用になるほとんどの処分業者は大手の業者さんでもあるので、第10条の「勧告、命令」になる事態は少ないんじゃないかなぁ。
実務としては、第38条の定期報告が新たに出てくる業務なんでしょうね。

あと、今回提示された事項は無いの?

省令が出されている。これも法律全体のでは無く限られた事項について。
これも長いけど全文紹介しておこう。

○環境省令第  号(案なので現時点では番号は付いていない)
資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律令和六年法律第四十一第八条第一項の規定に基づき廃棄物処分業者の判断の基準となるべき事項を定める省令を次のように定める。
令和七年  月  日
環境大臣浅尾慶一郎
廃棄物処分業者の判断の基準となるべき事項を定める省令
(用語)
第一条この省令において使用する用語資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する使用する用語の例による。
(再生部品又は再生資源に対する需要の把握及び供給に関する事項)
第二条廃棄物処分業者は、処分を受託した廃棄物についてその再資源化の実施が可能であると判断した場合当該再資源化の実施に先立当該再資源化により得られる再生部品又は再生資源の性状に関する標準的な規格を参照するものとする。
2廃棄物処分業者前項に規定する場合物の若しくは販売の事業を行う者の再生部品若しくは再生資源に対する需要又は再生部品若しくは再生資源の供給先の情報を収集するものとする。
3廃棄物処分業者は、再資源化の実施に当たっては、その使用する廃棄物処理施設の処理能力から供給が可能な再生部品又は再生資源の量をあらかじめ把握するものとする。
(技術の向上に関する事項)
第三条廃棄物処分業者は、再資源化の生産性を向上させる技術に関する情報を参照し、技術的かつ経済的に可能な範囲で、その使用する廃棄物処理施設に当該技術を用いた設備を導入するよう努めるものとする。
(温室効果ガスの量を削減するための設備の改良又はその運用の改善に関する事項)
第四条廃棄物処分業者は、その使用する廃棄物処理施設について、設備の入替えに当たっては、導入しようとする設備の再資源化の実施及び廃棄物の適正な処理のための機能がその導入前のものを下回ることがないよう留意しつつ、再資源化の実施の工程を効率化する設備の導入を図るものとする。
2廃棄物処分業者技術的かつ経済的に可能な範囲で、同一の設備に再資源化の実施の工程を集約するよう努るものとする。
3廃棄物処分業者は、その使用する廃棄物処理施設における設備について、その管理の基準を設定し、及び定期的に点検を行うなど、当該設備のエネルギー消費効率を改善又は維持するための措置を講ずるものとする。
(再資源化の実施の目標の設定及び当該目標を達成するための措置に関する事項)
第五条廃棄物処分業者は、その処分を行う廃棄物の数量に占める再資源化を実施する量の割合に関する目標を設定するものとする。
2廃棄物処分業者は、前項の目標を設定するに当たっては、技術的かつ経済的に可能な範囲で、法第三条第二項第三号に掲げる目標を勘案して設定するよう努るものとする。
3廃棄物処分業者は、第一項の目標を達成するため、再資源化により得られる再生部品又は再生資源の供給量の安定化を図るための措置並びに同項の目標の達成状況に関する継続的な自己評価及び当該評価を踏まえた改善措置など計画的に取り組むための措置を講ずるものとする。
(その他再資源化事業等の高度化及び再資源化の実施の促進に関し必要な事項)
第六条廃棄物処分業者は、適正な再資源化を実施する人材を育成するため、その従業員に対して、再資源化事業等の高度化及び再資源化の実施の重要性並びに法令遵守等に関する研修を実施するものとする。
2廃棄物処分業者は、従業員の労働環境を改善するための措置を講ずるものとする。
3廃棄物処分業者は、前条第一項の目標の達成状況及び自らの再資源化の実施の状況を公表するものとする。
附則
この省令は、法附則第一条第二号に掲げる規定の施行の日(令和7年2月1日)から施行する。

これも何について規定しているか法律を見ないとわからないわね。

そうだね。この省令の冒頭に「第八条第一項の規定に基づき廃棄物処分業者の判断の基準となるべき事項」って規定しているよね。

まず、これを確認してみようか。

法律(廃棄物処分業者の判断の基準となるべき事項)
第八条 環境大臣は、資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化を促進するため、環境省令で、次に掲げる事項に関し、廃棄物処分業者の判断の基準となるべき事項を定めるものとする。

ここでちょっと注意しなければならないことがある。それは「廃棄物処分業者」の定義。

あ!それ、ちょっと頭の片隅にあります。
たしか、産業廃棄物の許可業者だけじゃないんでしたよね。

よく覚えていたね。これは法律の第4条。

(国の責務)
第四条 国は、地方公共団体、廃棄物処分業者(一般廃棄物処分業者(廃棄物処理法第七条第十二項に規定する一般廃棄物処分業者をいう。以下同じ。)及び産業廃棄物処分業者(廃棄物処理法第十四条第十二項に規定する産業廃棄物処分業者をいう。以下同じ。)並びに事業者であって自らその産業廃棄物(廃棄物処理法第二条第四項に規定する産業廃棄物をいう。以下同じ。)の処分を行うものをいい、埋立処分又は海洋投入処分(廃棄物処理法第十二条第五項に規定する海洋投入処分をいう。)を業として行う者を除く。以下同じ。)及び事業者に対し、次条から第七条までに規定するこれらの者の責務が十分に果たされるように必要な技術的援助を与えることに努めなければならない。

そうそう!

廃棄物処分業者=
一般廃棄物処分業者+産業廃棄物処分業者+自社処理で産業廃棄物を処分している事業者


だった。
埋立処分又は海洋投入処分は除くんでしたね。

そのとおり。
それで、この人達に4条では「国は必要な技術的援助を与える」と規定している。
つまり、なんらかの「責務」もあるけど「メリットの対象」にもしていくよ、と規定している。

ん?それを言われても、そして改めて法律を読んでもまだよくわからないんけど、
どう言うことですか?

BUNさんもまだよく判らない。おそらく、他の政省令やガイドライン、マニュアルが整備されて初めてわかることだと思うけど、次のように想像、推察している。

実は、今までは「再資源」「リサイクル」と言っても、具体的なリサイクル率や手法はほとんど規定してこなかった。家電リサイクル法や食品リサイクル法のループ認定などに規定している程度。廃棄物処理法の中間処理の許可に関しては「リサイクル率」や「どのような技術、手法」ということは規定していない。原則「適正処理」の基準。
これを産業廃棄物の種類ごとに、望ましい手法や資源化率などを示していくことになるんじゃないかなぁ。
さらに、この再資源高度化法は「需要」という要因を重要視していた。

需要が無いリサイクル製品を作ったところで、結局は廃棄物になるわけだしね。

だから、今回の省令案でも「再生部品若しくは再生資源に対する需要又は再生部品若しくは再生資源の供給先の情報」という文言が登場するんだと思う。
さらに、この法律の目的の一つでもある「脱炭素」の視点から「当該設備のエネルギー消費効率を改善又は維持するための措置」という文言も見られる。

なるほど。今までリサイクル業者が自分の判断で「よかれ」と思ってやってきたリサイクルについても、一定の基準や目標が設定されて、社会がそれを見ていくって時代になるってことかなぁ。

でも、まぁ、冒頭で話したとおり、今回の政省令はあくまでも「一部」(だと思われる)。今後も本格施行までに何回か政省令やガイドラインは出されると思うので、引き続き注目していく必要があるね。